雅楽解説


音取(ねとり)

 音取とは、一種の音あわせで、耳ならしともいうべき役割を持つごく短い(1分前後)楽曲で、雅楽の各調子に配されており(壱越調音取、平調音取、……といったように全調子にある)、各楽器の主管(首席奏者)によって奏されるところの、いわば前奏曲をいう。音取はごく短いながらも、各調子の音階や旋律法が巧みに取り入れられており、音取からだけでも、その調子の持つ音楽的特徴を味わい知ることができる。
 音取は一般に、まず笙が奏され、続いて篳篥、横笛の順に演奏が開始される。楽に合わせて合掌・礼拝を行う場合は、これらの楽器の音色を知っておく必要がある。

止手(とめて)

 雅楽の演奏の最後には、「止手」と称するごく短い(30秒程度)特別の楽句を奏して楽曲を終了する。止手は、音取と同じく雅楽の各調子に配されており(壱越調止手、平調止手、……といったように全調子にある)、楽器の主管(首席奏者)だけで奏され、最後は必ずその調子の終止音(宮音)で終了することになっている。また、法要における奏楽では、導師や結衆等の動作に合わせて奏楽する都合上、合奏の途中で楽曲を終了する場合が多いのであるが、その時は曲の途中であっても楽行事(または鞨鼓の奏者)の合図で「止手」が奏される。楽の途中であるにも関わらず、ごく自然な形で曲が終了するよう配慮されている。
 止手は必ずその調子の終止音(宮音)で終了するのであるから、導師は止手の終止音より声明の出音をさぐることができる。黄鐘調の楽曲が奏される場合は、止手の終止音は「黄鐘(ハ調ラ)」だということである。
調    子終止音(ハ調)
壱越調(いちこつちょう) 壱越(レ)
平 調(ひょうじょう) 平調(ミ)
双 調(そうじょう) 双調(ソ)
黄鐘調(おうしきちょう) 黄鐘(ラ)
盤渉調(ばんしきちょう) 盤渉(シ)
太食調(たいしきちょう) 平調(ミ)

六調子(ろくちょうし)

 壱越調、平調、双調、黄鐘調、盤渉調、太食調の六つの調子をいう。洋楽にハ長調とか、ニ短調という調があるように、雅楽にも調子がある。もともと唐楽には12の調子があった。これを「十二調子」といい、これがさらに「母(おも)調子」と「枝(えだ)調子」に分けられていた。
母  調  子枝  調  子     
壱越調
平 調
双 調
黄鐘調
盤渉調
太食調
いちこつちょう
ひょうじょう
そうじょう
おうしきちょう
ばんしきちょう
たいしきちょう
沙 陀 調
壱越性調
性  調
水  調
乞 食 調
道  調
さだちょう
いちこつせいちょう
せいちょう
すいちょう
こつじきちょう
どうちょう
==>壱越調
==>壱越調

==>黄鐘調
==>太食調
==>太食調
 しかし、近代において母調子に統一され、この母調子を「雅楽の六調子」と一般にいうようになった。舞楽曲として有名は「蘭陵王」は元来は沙陀調の曲であったが、いまは壱越調に属している。
 唐楽の六調子の他に、高麗楽には三調子がある。高麗壱越調、高麗平調、高麗双調の三つである。

拍子(ひょうし)

 雅楽(唐楽)の拍子には、延拍子、早拍子、只拍子があり、さらに只拍子から夜多羅拍子というものが生まれた。
延拍子延八拍子4分の8拍子のゆっくりとしたもので、早拍子の2拍を1拍にとって奏する。延拍子の曲を延楽(のべがく)または延物(のべもの)ともいい、「賀殿破」や「迦陵頻破」などがこの拍子である。
延四拍子
早拍子早八拍子4分の4拍子の早いもので、「越天楽」や「蘭陵王」などがこの拍子である。
早六拍子
早四拍子
只拍子延只八拍子2拍と4拍とが交互に連続して組み合わされたもので、延只拍子は2分の2拍子と2分の4拍子の組み合わせ、早只拍子は4分の2拍子と4分の4拍子の組み合わせで、これには「陪臚」「還城楽」「抜頭」などがある。
早只八拍子
早只四拍子
夜多羅拍子夜多羅八拍子早只拍子の曲を右方の舞で舞うときの伴奏で、4分の2拍子と4分の3拍子を交互に連続して奏する。管絃のときと違って舞楽の伴奏となると曲ははずんでくるので、4分の4拍子の最後の1拍を捨ててしまって奏さない。そうすると曲は浮き浮きしてリズムに乗ってくる。
夜多羅四拍子

乱声(らんじょう)

雅楽、とくに舞楽の前奏曲の一種。乱詞(らんじ)ともいう。独立した楽曲ではなく、舞人が登場する前の導入曲、あるいは登場の音楽として用いられる。いずれの場合も、竜笛あるいは高麗笛(こまぶえ)が奏する無拍節的な曲で、太鼓と鉦鼓が大まかに打たれる。音頭(おんど)がはじめに笛を独奏し、付所(つけどころ)から助管(じょかん)という助奏者が最初と同じ旋律を追いかけて吹く退吹(おめりぶき)の奏法をする。同じ旋律が重なり合っておもしろく、各自奏者たちが勝手に吹いているように聞こえるが、奏法には一定の規定がある。現在は7種類の乱声が用いられている。唐楽では左方の「振鉾」の登場音楽である「新楽乱声」、「迦陵頻」「胡飲酒」「蘇莫者」「抜頭」の登場音楽である「古楽乱声」(林邑乱声)、「振鉾」「城楽」「陵王」の導入曲である「小乱声」、「安摩」「二舞」の登場音楽、および当曲、「還城楽」「陵王」の退場音楽である「安摩乱声」、「還城楽」「陵王」の登場音楽である「陵王乱声」の5種類、高麗楽では右方の「振鉾」「貴徳」「胡蝶」「新靺鞨」「八仙」「林歌」の登場音楽である「高麗乱声」と、「高麗乱声」の前に舞の導入曲として奏される「高麗小乱声」の2種類。なお、「小乱声」と「高麗小乱声」は笛の独奏に太鼓と鉦鼓が加わる短い曲で、そのあとに乱声が続くのが普通である(例外として「納曾利」は「高麗小乱声」のあと、すぐに当曲が奏される)。また退吹のほか、拍節的なリズムでカノン風に奏する追吹(おいぶき)や、乱声の途中で曲を終わる乱声止(らんじょうどめ)という乱声に特有の奏法がある。