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法要と雅楽


1.はじめに(楽を軽視していませんか)

 落慶法要や継職法要などの大きな法要には、どの寺院でも楽人を迎えて法要に雅楽を演奏されることと思います。報恩講法要などの年中行事においても雅楽を演奏されている寺院もありますが、一般的には特別な法要のときだけ用いられているのが現状のようです。従って、楽をたしなむ一部の方を除いて、多くの方は楽についての関心が薄く、それ故に知識も少ないというのが実状ではないでしょうか。

 そこで、一人でも多くの方に興味を持っていただき、また積極的に法要に楽を使っていただけるよう、私が集めた法要楽に関する資料をアップさせていただきます。雅楽そのものについての知識は、専門書なり別のページにゆずるとして、法要に楽を取り入れるための実践的なノウハウだけをまとめていますのでお役立て下さい。

 こんなことを書くと、いかにも今私が楽のエキスパートのような印象を与えますが、決してそうではありません。知識がない故に集めた資料が多いだけで、みなさんの役に立つ資料があれば幸いです。


2.まずは選曲から

 雅楽曲にどのようなものがあるかを見たい方は[勤式関係資料]のサブメニュー下にある[雅楽曲一覧]をご覧下さい。現在楽譜が残っており演奏が可能な曲名とその解説を見ることができます。

 さて、法要に雅楽を入れる場合、楽人の方に選曲を任せきりどころか、法要が終わっても何調子の何という曲が演奏されたかも知らずじまいという人が少なくないようです。できれば楽人の方と一緒に自分も選曲して法要に臨みたいものです。次第を作る場合は、次のように次第にも楽曲を書き入れておけば親切です。

先、行 事 鐘
次、諸僧入堂着座
次、音取(平調)
次、楽(越天楽)

次、導師登礼盤
次、止   楽
次、打   磬


合掌礼拝

賦華籠

二音

 導師が楽の調子を知っておくと、止楽のときに奏される止手の終止音(最後の音)より簡単に声明の出音が得られることがあります(詳細はリンク先を参照)。

 左の例では、音取のうしろに「平調」とありますから、止楽の最後は必ず「平調」で終わります。

【選曲のポイント】さて、問題の選曲ですが、次のような点に注意して選曲を行います。生楽の場合は楽人の方と相談することも大切です。
  1. 一つの法座に奏する曲は、全て同じ調子のものを用います。つまり、登礼楽が壱越調の曲ならば、中間楽、降礼楽も壱越調の曲を使います。
  2. いうまでもありませんが、一曲を構成する音取、楽、止手は全て同じ調子となります。CD等で楽を出す場合、違った調子の組み合わせもできてしまうので注意が必要です。
  3. 法要が二座以上ある場合は、各座に違った調子を配するようにします。
  4. 曲の拍子も考慮に入れて選曲します。登礼楽(出仕楽)には各調の八拍子と六拍子(あるいは四拍子のうち重い)ゆるやかなテンポの曲が、降礼楽(退出楽)には各調の四拍子と只拍子の多少早いテンポの華麗な曲が使われます。
  5. 曲の由来等も選曲の材料にしましょう。いくら浄土真宗でも、結婚式に葬場楽を流したのでは、非常識のそしりはまぬがれません。
  6. 楽に動作を合わせる場合、事前に習礼を行うならともかく、動作開始の箇所が明瞭な曲を選ぶことも大切です。実際に聞いてみて、動作が合わせられるかどうかも確認しておきます。
【選曲のための資料】 雅楽をたしなむ人はともかく、私のような凡人には上記の注意点だけで選曲するのは至難のわざです。そこで役に立つのが次の資料です。資料の中から適当に選んでしまいます(笑)。
現在本山で奏される楽曲平成3年現在、本山の御正忌報恩講法要、彼岸会、龍谷会で奏されている楽曲の一覧です。登礼楽・降礼楽(あるいは登礼楽・中間楽・降礼楽)を一座毎に記しています。  
明如上人ご沙汰の楽曲信知院明如上人の御沙汰として、讃衆詰所に掲示されていた登壇楽(出仕楽)・中間楽・降壇楽(退出楽)の一覧です。                         
明治23年御正忌の楽曲明治23年2月10日発行の『本山月報』第2号所載の「両堂録事」に記されている楽曲です。現在依用されている楽曲と大して変わりませんが、参考までにアップしておきます。
 CDで演奏する場合(次項参照)は、資料をプリントアウトして、手持ちのCDにある曲目全てに印を付けておきましょう。その際、くれぐれも調子に気を付けて下さい。例えば「越天楽」は、平調・黄鐘調・盤渉調の3つの調子のものがあります。

3.CDでもできる法要楽の演奏

 法要に楽を演奏するため毎回楽人を呼ぶとなったら大変ですが、CDプレーヤ等が普及した現在、CDを使って演奏することができます。雅楽のCDもたくさん出回っています。リモコンがあれば、自分も出仕しながら操作することも可能です。

【雅楽CDの選び方】好きな雅楽のCDを買えばいいのですが、私の経験からいえば、法要楽として使うのに実用的なのは次のようなCDです。

  1. 曲と曲との間隔ができるだけ短く録音されているもの。例えば、「音取」に続けて「楽」を再生する場合、「音取」の部分が終わって5秒も経ってから「楽」が再生されたのでは、間が抜けてしまいます。
  2. 1枚のCDに同じ調子の「音取」「楽」が集められて録音されているもの。壱越調なら壱越調の曲が複数枚のCDにバラバラに録音されていると、法要の途中で何度もCDを取り替える羽目になります。
【演奏に関するノウハウ】
  1. 再生ボタンを押してから再生されるまでの間を考慮し、あらかじめ早めにボタンを押すなどの工夫が必要です。
  2. 止楽で、楽の途中から止手に移る場合、音が飛んで聞きづらいので、止手を使わずに、楽の途中で音量を絞っていって終わったほうがいいようです。
  3. 音質が悪いと、楽が騒音にしか聞こえません。十分な音量を出しても、音が割れたりしないプレーヤを使うことも大切です。

4.法要に楽を入れる(作法との関連)

 曲が決まったら、実際に法要で楽を入れるわけですが、どこで楽の演奏を始め、どこで演奏を終わるか、その詳細を次に示します。諸動作を開始するタイミングがわかるように、動作開始の合図となるところを色字で示し、特に合図が楽と関係している部分は赤字で示しています。

 御代前側第一席から導師が登礼盤し、最後に降礼盤して還着本座する場合の理想的な作法の流れです。

【登礼盤における楽の演奏】

先、行 事 鐘
次、諸僧入堂着座
次、音   取
次、  楽
次、導師登礼盤
次、止   楽
次、打   磬


合掌礼拝

賦華籠

二音
  1. 法要の開始時間になると、会役者は承仕に向かって「か〜んしょ〜!(喚鐘)」と発声。承仕は「は〜い〜!」とこれを受けながら撞木を手に取り喚鐘のところへ足音をたてながら走っていきます。
  2. 喚鐘が鳴り始めると、会役者の合図により余間に控えていた奏楽員(楽人)が外陣に降り立ち、畳の2枚目を通って所定の奏楽位置に着座します。会役者は続いて余間出勤者に出仕をうながします。
  3. 喚鐘の最初の打ち下ろしあたりで、会役者の合図により結衆が入堂を開始します。
  4. 承仕は喚鐘の2回目の打ち上げを行い、笙の奏者に注目しつつ打ち上げたままに待ちます。そして、笙の奏楽準備ができた(笙が上がった)のを見て喚鐘の打ち下ろしに入ります。
  5. 喚鐘の2回目の打ち下ろしが始まると、会役者は奏楽員に対して音取を奏する合図を送ります。会役者の合図により、奏楽員は音取を開始します。
  6. 音取の笙が鳴り始め、続いて篳篥が鳴り始めると結衆は合掌をします。
  7. 続いて横笛が鳴り始めると礼拝の動作を行います。
  8. 音取が終わると楽(まず横笛の主管の独奏)に入り、楽の合奏を合図に導師は登礼盤の作法を開始します。
                  ……略……
  9. 導師がいただいた声明本を向卓に置くと(以前は、導師が磬枚を取り右膝の上に立てると)、楽行事(または鞨鼓の奏者)の止楽の合図で止手が奏されます。
  10. 楽の止手が終わると、導師が打磬二音を打ちます。
  11. 導師は止手の終止音より出音を得て、声明の句頭を発音する場合もあります。
 これを見ると、楽は作法と密接に関係していることがわかります。楽の演奏が諸僧の作法を開始する合図となっている箇所がずいぶん見られます。続いて、法要の最後の降礼盤です。
【降礼盤における楽の演奏】

次、打   磬 
次、  楽
次、導師降礼盤

次、止   楽
次、諸僧退出
二音
撤華籠
還着本座
合掌礼拝
  1. 「回向」を唱え終わり、導師の打磬二音が終わると、楽の演奏を開始します(この時は音取はありません)。
  2. 楽の合奏を合図に導師は登礼盤の作法を開始します。
                  ……略……
  3. 導師の還着本座を見計らって楽行事(または鞨鼓の奏者)が止楽の合図をし、止手が奏されます。
  4. 導師の還着本座がおわるとすぐに全員で合掌します。
  5. 楽の止手の終わりで礼拝します。
  6. 合掌礼拝が終わると、第一席の結衆が退出の動作を開始します。
 上の例では、結衆は楽なしで退出することになりますが、全員が退出してしまうまで楽の演奏を続けても構いません。その場合、合掌礼拝は導師が還着本座してすぐに、導師に合わせて行うことになります。

 次に、「総礼頌」や「伽陀」がある場合の作法の流れです。「無量寿経作法」を例に挙げると、楽の演奏と「総礼頌」の流れは次のようになります。

【総礼頌がある場合の登礼盤における楽の演奏】

先、行 事 鐘
次、諸僧入堂着座
次、音   取
次、総 礼 頌
次、  楽
次、導師登礼盤
次、止   楽
次、打   磬


合掌礼拝
末臈発音
賦華籠

二音
1〜7. 先に挙げた【登礼盤における楽の演奏】と同じです。
  1. 音取が終わると、祖師前側末席の者が「総礼頌」の句頭を発音します。
  2. 「総礼頌」を唱え終わると、楽の演奏を開始します。
  3. 楽の合奏を合図に導師は登礼盤の作法を開始します。
                  ……略……
11〜. 先に挙げた【登礼盤における楽の演奏】の 9. 以降と同じです。
 ちなみに「無量寿経作法」で楽を入れない場合は、「総礼頌」の同音から導師は登礼盤の作法を開始します。

【直登について】導師が祖師前側第一席に着座せず、後門からいきなり登礼盤をおこなう作法(いわゆる「直登」)は、ご門主に限られており、一般寺院では行ってはいけないことになっています。しかし、一般には広く行われているようで、この場合の楽の演奏ですが……これには敢えてふれないことにします。

【附楽・無言行道】上記のような登礼盤(出仕)、降礼盤(退出)のとき以外にも、楽が使われる場合があります。雅楽を声明の伴奏とする「附楽(つけがく)」は「三奉請」によく奏されます。また、「五会念仏作法」の無言行道では、行道の動作を鉦鼓の音を合図に行っています。



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