御伝鈔下巻・第三段
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「御伝鈔」下巻


第三段(弁円済度の段)

 聖人(親鸞聖人)が常陸国において専修念仏の教義をおひろめになったところ、大体誹謗する人は少なく、信順する者が多かった。
 さて一人の山伏がいて、どうかすると仏法に敵がい心を抱き、ついには聖人を殺害しようと機会を狙っていた。聖人はいつも板敷山という深山を往返されるので、その山において何度となく待ち伏せしたが、一向にその機会を得ず、聖人がただ人でないと思うに至ったのである。
 そこで聖人に会ってみようと思い、禅室を尋ねた。何の躊躇もなく出てきてお会いなされた聖人の尊顔を拝すると、殺害心はたちまち消え去り、さらに後悔の涙さえ出てきた。山伏は弓矢を折り、刀や杖を捨て、頭巾をとり、着衣をあらためて、その場で仏教に帰依し、遂には往生の素懐を遂げた。即ち、聖人のお弟子明法房がこの人である。